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究極の快楽を得られるといわれるパズル・ボックスを解くと呼び出される四人の魔導師。
彼らはある者には悪魔、ある者には天使である。
解いた人間は魔導師に地獄へと引きずり込まれ無窮の苦しみを味あわされる。






『ヘルレイザー』

"Hellraiser" '87
クライヴ・バーカー監督


 おぞましく陰惨な美。そんな映画です。

 ルマルシャンの箱、と呼ばれる小箱のパズルを解くと「究極の快楽を体験することができる」という伝説がある。映画の中のフランクっつー男は日常の性的官能だけでは飽き足らなくなったのか、その小箱に手を出してしまう。んでもっていざ解いてみると……快楽の扉は開かれし!

 だけどね! 究極の快楽というのは究極の痛みなのー、ということでフランクは肉体を失い、地獄で永遠の痛みを味わうことになる。


 究極の快楽を求めると究極の痛みであった。


 こういうのは困ります。究極の快楽を求めたのに痛みを味あわされるって。痛みの描写も本当に痛そうで。凝りに凝ったSFXが本当に痛そうなんですよ。
 フランクはそうやって現世とはオサラバしたわけですが、その家に親戚一家が引っ越ししてきました。夫のラリー、妻のジュリア、そして娘のカースティ。カースティにとって、ジュリアは継母です。

 フランクは屋根裏にて、ひょんなことで骨と申し訳程度の肉付きで復活します。完全な肉体を手に入れるには大量の血が必要。そういうわけで、かつて愛人関係にあったジュリアに哀れな生贄を連れてくるよう協力させます。
 骨とちょっぴりの肉のフランクが非常に気持ちが悪い。僕は理科室の人体模型を見ると妙なむず痒さを感じていました。身体の中身がスケスケー、ちょっとだけ肉もついてるよってなヴィジュアルが気持ち悪くて怖かった。画面に骨ちょっぴり肉のフランクが近付くと、うわこっち来んなってなる。かなり怖い。

 で、フランクの復活のために頑張る義母の行動に疑念を抱いたヒロインがどうこうする話です。
 正直なところ、ここんところのパートよりもやっぱりピンヘッド様でしょう。
 誰かって? そりゃあ奥さん(誰?)、ピンヘッド様といったら魔導師(セノバイト)の筆頭に君臨するお方。
 魔導師(セノバイト)とは、前述したルマルシャンの箱を解くと現れるおぞましい四人組。あんたら誰やねん、と訊くと「快楽の領域を広げる案内人」「ある者には悪魔、ある者には天使だ」と名乗ります。この四人組はパズルを解いた人間を地獄に引きずり込み「究極の快楽=究極の痛み」を体感させるのです。
 魔導師の筆頭、ピンヘッド様は言う。


「我らと共に行くのだ、快楽を味あわせてやる」


 いや、マジ遠慮したいものです。
 このピンヘッド様がとにかくかっこいい。
 名前の通り頭部中に刻まれている格子状の傷跡の交点にてピンが刺されており、知性溢れる顔立ち、物腰柔らかかつ堂々とした出で立ちに、セクシーな声音、いかしたファッション……
 なんかもう、風格からして「王」という感じ。
 しかし彼は情け容赦無い。
 目先の快楽に惑わされてパズルを解く人間は有無をいわさず地獄に引きずり込む気ムンムン。こわい、こわすぎる。だけどすごくかっこいいよ、ピン様!
 そんな感じの人です。


 ピン様率いる魔導師たちの紹介。


 まずはピン様!
 
「泣くな、せっかくの苦しみが無駄になる」


 フィメール!
 
「お前がいい……」


 チャタラー!

カチカチカチカチカチ


 バターボール!

「……」




 魔導師たちは冗談抜きでいかす連中です。
 魔導師を見るためだけに映画を観るのもアリだと思います。

 映画自体は残虐で血みどろのシーンが多く、音楽は美しく情緒的なんです。
 これがとても合っていてクラシック・オペラ! そんな風に観ることができました。



 えーと、その他人間たちを紹介ー。

 ヒロインはカーティス。よく叫んでます。
 魔導師と取り引きしたり、面と向かって戦う姿勢を見せるタフな女性。

 カーティスの父親役のラリー。善人。
 役者はアンドリュー・ロビンソン。あの『ダーティ・ハリー』に出てくる殺人鬼“さそり”を演じていた人です。
 この映画では悪い人ではないんだけども、さそりの演技が強烈すぎて悪い人にしか見えなかった。
 感情の読めない表情をすると「なんか企んでそう」とか思っちゃう。
 どうやらこの人、さそり役の影響で悪役ばかりやらされて、嫌気がさして、何年か俳優業を休止していたようなんですね。

 義母のジュリア。ロクデナシ女。
 この人の演技が真に迫りすぎてそれが怖かった。

 フランクおじさん。悪い奴!
 カースティの伯父にあたる。この野郎、カースティを色目で見てやがる。







【素朴なギモン】 〜究極の快楽って何?〜

 究極の快楽=究極の痛み。
 つまりSM。度の過ぎたSM。

 〜おわり〜


『ヘルレイザー2』



"Hellbound: Hellraiser II" '88
トニー・ランデル監督

 いい! いい、続編。
 見どころはピンヘッド様とチャナード博士。
 前作にハマった人もそれなりに安心して楽しめる作品です。


 えーと、えーと。
 前作から引き続き、ヒロインはカースティ。
 起こったことを説明しても信じてくれるはずもなく、強制的に精神病院に入れられちゃいます。あんまりだよねえ。
 精神病院のチャナード博士は長年、例のパズル・ボックスの研究を続けていて、なんやかんやで前作の義母ジュリアがデデーンと復活。
 でも復活したては前作のフランクおじさんの如く、骨とちょっぴり肉の歩く人体模型状態。これが気持ち悪くって観ているこっちはブルブル震えている。
 そんな歩く人体模型状態のジュリアはチャナード博士を誘惑。濃厚キス・シーンは画面から目を逸らしてしまうほどの禍々しさ。
 肉体を取り戻したいジュリアは、チャナード博士が連れて来る人間から血を吸い取り徐々に人間らしい身体になっていきます。
 んでもって失語症患者の少女にパズルを解かせ、地獄の扉が開いてしまう。


 というものなんだけど……。
 なんというか、ジュリアのパートは割とどうだっていいかな。


 この作品で新たな魔導師が誕生します。その名も「Dr.チャナード」!
 これがまた……どう表現して良いのか。アレっぽいワームみたいなのに頭を持ち上げられて、手からは触手が複数出ていて、そこから目玉やら入れ歯やら指やら花やら刃物やらが出現するというわけわからんデザイン。
 わけわからんながらも結構強いのだからわけわからん。
 特にカースティの前に初出現するシーンは笑える。


うい〜っす


 ピン様率いる魔導師に代わろうと、この新生魔導師が勝負を仕掛けます。
 対峙した時はわくわくしたものです。両者お手並み拝見ってなもんです。
 でも結果は絶句!

 あとは観てのお楽しみです。


 とびきりの面白みがあるの
 損はないわ



 



『ヘルレイザー3』



"Hellraiser III: Hell on Earth" '92
アンソニー・ヒコックス監督

 かっこいいピン様を見たい! という人には不向きな作品。
 えーと……


 キャストは一新。
 物語の中心となる人物はテレヴィ局の新人リポーター、ジョーイ・サマースキル(いい名前だね)と、クラブのオーナーであるJP、JPの前の彼女テリーなどです。
 前作でピンヘッド様は死んでしまったはずでした。ピン様の死はゴジラの死くらい悲しいものです。だがどちらも復活する。
 今回のピン様は二つの人格に分かれてしまいました。一つは生前のエリオットさんの人格(陽)と、邪悪な人格(陰)です。ここのところは推測ですが、あの高貴なるピン様はエリオットさんの人格が影に内在しているが故だったのだと思います。
 そしてエリオットさん人格がすいーっと抜けたピン様は、不気味な彫像に封じ込められています。その彫刻を何も知らずに手に入れたクラブのオーナー、JP(こいつはなかなか悪そう)。ピン様はJPをお得意の誘い込み口調で協力させます。そう、人間の血と肉を吸収するためです。一作目はフランクおじさんが、二作目はジュリアが、三作目はピン様が、復活のために血と肉を欲する。お馴染みのパターンと化しています。
 JPは心血を注いでくれる女性を見つけて……

 それで、なんやかんやでピン様復活。

 ピン様が血と肉を得てこの世に降臨しちまって「こいつァやヴぁい」と危機感を募らせるエリオットさんは、テレヴィ局の美人リポーター、ジョーイに白羽の矢を立てます。
 エリオットさんは生前は軍隊の大尉でした。大戦が終わり、心に大きな傷を負ったエリオットさんは「究極の快感」を得ることができるパズルを手にして地獄の門を開いてしまいました。 そして箱の中の怪物はエリオットさんの中の悪魔と一つになり、前世を忘れ数十年地獄に仕えたということです。
 エリオットさんはこの世に現れることはできないため、ピン様をこっちの世界に連れ込みやがれ、とジョーイにお願い。そうすりゃあ私が倒せる、と。

 さて、ジョーイはどうなってしまうのかああ。


 というストーリーなんです。
 悪の部分が分離され、タガが外れたピン様は単なる凶悪な殺人鬼レヴェルへと成り下がっています。地獄にも規則があるので好き勝手はできなかったが、現世に降臨したらその規則とやらに従う必要性もなくなったため大暴走。これまでの風格ある言葉遣いも消え、血を欲する愉快な異常者って感じです。
 やはりエリオットさんあってのピン様だったんだね、と再認識。

 そして新生・魔導師も登場。
 ピン様が直々に殺した人間をリサイクルして魔導師に。
 ピン様のクリエイティブな手で作られた魔導師たちは……その、いまいちなのです。
 顔中にコンパクト・ディスクが刺さりまくったDJや、顔中に鉄線みたいなのでグルグル巻きにされカクテルつくるやつでガソリンまいたり火を吹いたりする奴や、目にカメラが埋め込められたドクに、ほかいろいろ。
 ピン様は「私の作品だ!」と自信たっぷりに宣いますが……
 ああ、僕は旧魔導師のほうが好きです。

 新生・魔導師もピン様に続きジョーイを追い詰める。
 もう人間であるジョーイは逃げるしかないよね。

 ジョーイがピン様をおびき寄せようと頑張ろうとするが、新生・魔導師もいっしょについてくるからパニックに。
 教会に逃げ込み牧師さんに声をかけられてすっかり取り乱したジョーイは「悪魔よ、悪魔!」などと口走る。
 牧師さんは「悪魔などいませんよ。たとえであり架空の存在だ」と諭します。
 するとギィィィィと扉が開いて

\デデーーーン!/




「Then what the fuck is that?」
(訳:じゃあ、アレは何やねん)



 いろいろ不評の声も聞こえるこの映画。
 ピン様がかっこ悪いこと以外はとてもエンジョイ&エキサイティングできる映画でした。人はいっぱい死ぬし、血はドバドバ出るし、テリーの行末は悲しいし、エリオットさんの決断は泣かせるし、テーマ・ソングはモーターヘッドだし。
 是非とも皆も観よう!





 
 〜おわり〜








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