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ボブ・ディランの『ライク・ア・ローリング・ストーン』
Like a Rolling Stone/Bob Dylan


曲名は直訳すると「転がる石のように」



今さら僕のような20歳そこらの若造が語るには申し訳ないような名曲なんですが、
失礼のないように書きたいと思います。

この曲は、ボブ・ディランが1965年にシングルとしてリリースされ、アルバム『追憶のハイウェイ61』(名盤です)に収録されています。



『ライク・ア・ローリング・ストーン』が収録されているアルバム『追憶のハイウェイ61』。発売は1965年。
このジャケットはディラン曰く「座っているところを撮っただけで、意味は無い」とのこと。


ボブ・ディランはこの曲を発表する以前からフォーク・シンガーの新星として活躍していました。
しかし、ディランはそのフォーク・シンガーの装いを捨て、エレクトリック・ギターを背負いロックのサウンドを鳴らしました。
ディランは以前にも電子楽器を使用したアルバム『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム』でロックへの接近を果たしていますが、ロックにメッセージ性を与え、新たな時代の幕開けを宣言するという象徴的な意味合いではこの『ライク・ア・ローリング・ストーン』が最高の一曲だと言えます。

ロックンロールに新たなる可能性が広げ、自分の望むサウンドを手に入れたディラン。
しかし、フォークを愛好し、ロックを侮蔑の対象として見ていた人たちからすると、ディランの方向転換はそれはもう不評であったようです。
ドキュメンタリー映画『ノー・ディレクション・ホーム』ではディランと観客のやり取りから、この曲をめぐる反発がどのようなものであったのかがうかがい知ることができます。
観客はディランに「裏切り者め!」と叫ぶ。それに対してディランは「でたらめ言うな」と返します。「お前は嘘つきだ」と。
そしてディランは「お前らがどう思おうが、これは俺の歌だ」と言わんばかりに大音量で『ライク・ア・ローリング・ストーン』を掻き鳴らしたのです。
これは伝説の名演としていまだ語り継がれています。なんたってカッコ良いのだから。

確かに、既にロックンロールは文化として確立されていましたが、やはり「若者が好む下劣な音楽」として見下す人もいたようで、そういう人たちにディランは強烈に、ロックンロールは文学的表現、思想的表現が可能であると示したのです。
この変化は単なるスタイルの変化だけではなく、ひとつの時代の変化でした。

歌詞のみならず、曲の長さや構成も型破りなものです。
ディランの目指した「ワイルドで水銀のようなサウンド」が具現化されており、マイク・ブルームフィールドやアル・クーパーらの素晴らしい演奏陣によって、そのとてつもないエネルギーが伝わってきます。
アル・クーパーの印象的なオルガンからはじまり、ディランによる印象的な歌い出し。
上流階級に属していた女性が底辺まで落ちぶれてしまったことを歌っており、そこから畳み掛けるようなディランの「どんな気持ちだ?」という問いかけは皮肉たっぷりで僕はどうもゾクゾクしちゃいます。
上流階級の風刺と皮肉、反体制的な批評がこの歌のメッセージだと言われています……が、
僕はそう難しいことは考えず、大いなる皮肉曲として楽しんでいます。
人生なんてどう転ぶかわかったもんじゃない。まるで転がり石のようなものだ。



・サビの「How does it feel」について
この曲は落ちぶれた女性、ミス・ロンリーのことについて歌い、
サビの部分で「How does it feel?」(どんな気持ちだ?)と問いかけます。
これはどういった思いで歌われているのか。

1.ザマァないな
最もわかりやすい。
かつては金持ちで傲慢に振る舞っていたが今は一文無し、どんな気持ちだ?
ザマァないな。 ってなニュアンス。
驕る平家は久しからず。

2.スッキリしただろ
すべてを失った。失うものが何もなくなって、どんな気持ちだ?
スッキリしただろ。 ってなニュアンス。

3.ありのままになった自分を感じて
自分の余計な装飾も崩れ去り、どんな気持ちだ?
ありのままになった自分を感じて。 ってなニュアンス。
落ちるところまでいかないと発見できない自分。素敵だと思わない?


他にもたくさんのニュアンスがあるだろうと思います。
ぼくはこの三つあたりを感じながら聴いています。





〈歌詞・和訳〉

Once upon a time you dressed so fine
You threw the bums a dime in your prime, didn't you ?
People'd call, say, "Beware doll, you're bound to fall"
You thought they were all kiddin' you
You used to laugh about
Everybody that was hangin' out
Now you don't talk so loud
Now you don't seem so proud
About having to be scrounging for your next meal.

かつてあんたは着飾って
物乞いに小銭を投げつけていた、そうだろ?
皆は言ったよな、「気をつけろ、落ちぶれてしまうぞ」
あんたは皆がからかっていると思っていた
よく笑いものにしていたよな
うろついている奴らのことを
今、あんたは大口をたたかない
今、あんたには誇りもない
次の食い物をあさり回らなきゃならないからな



How does it feel
How does it feel
To be without a home
Like a complete unknown
Like a rolling stone ?

どんな気持ちだ
どんな気持ちがする
帰る家もなくして
誰にも知られずにいることは
転がる石のようだよな



You've gone to the finest school all right, Miss Lonely
But you know you only used to get juiced in it
And nobody has ever taught you how to live on the street
And now you find out you're gonna have to get used to it
You said you'd never compromise
With the mystery tramp, but know you realize
He's not selling any alibis
As you stare into the vacuum of his eyes
And say do you want to make a deal?

あんたはいい学校に行っていたよな、ミス・ロンリー
だがわかっていただろ、搾り取られていただけだと
誰も路上で生きていくすべなんざ教えてくれなかった
今ではそれに慣れていかなくてはならないからな
妥協はしないとあんたは言っていた
得体の知れない浮浪者といっしょになってみて、あんたもわかったろ
奴らはアリバイを売っているわけじゃない
奴らの空虚な目を見つめて
そして言うんだ、「取り引きしない?」って



How does it feel
How does it feel
To be on your own
With no direction home
Like a complete unknown
Like a rolling stone ?

どんな気持ちだ
どんな気持ちがする
一人きりでいることは
帰る家もなくして
誰にも知られずにいることは
転がる石のようだよな



You never turned around to see
 the frowns on the jugglers and the clowns
When they all come down
 and did tricks for you
You never understood
 that it ain’t no good
You shouldn’t let other people get your kicks for you
You used to ride on the chrome horse with your diplomat
Who carried on his shoulder a Siamese cat
Ain’t it hard when you discover that
He really wasn’t where it’s at
After he took from you everything he could steal

あんたは振り返ろうともしなかったな
 曲芸師や道化師が眉をひそめても
奴らが近寄ってきた時
 あんたをだまくらかそうとした
あんたはわからなかった
 そりゃ良い事じゃないって
あんたは好き勝手すべきではなかった
口のうまい奴といかしたバイクにまたがっていたな
奴は肩にシャム猫を乗っけてた
気付いた時にはつらかっただろう
奴が姿をくらましたことに
あんたのすべてを奪ったあとで



How does it feel
How does it feel
To be on your own
With no direction home
Like a complete unknown
Like a rolling stone ?

どんな気持ちだ
どんな気持ちがする
一人きりでいることは
帰る家もなくして
誰にも知られずにいることは
転がる石のようだよな



Princess on the steeple and all the pretty people
They're drinkin', thinkin' that they got it made
Exchanging all precious gifts
But you'd better take your diamond ring, you'd better pawn it babe

You used to be so amused
At Napoleon in rags and the language that he used
Go to him now, he calls you,
 you can't refuse
When you got nothing, you got nothing to lose
You're invisible now, you got no secrets to conceal.

塔の上のお姫様やすべての着飾った人たちは
飲んで考えて、うまくやったと思っている
高価な贈り物を交換し合って
だがそのダイヤの指輪を外して質に入れたほうがいいだろう、お嬢さん

かつては面白がっていたよな
ボロを着たナポレオンと彼の言った言葉を
今こそ彼のところを行けよ、彼が呼んでいる
 断ることはできない
あんたは何も持っていないとき、何も失うものはないんだ
あんたは透明だ、隠す秘密なんてないんだよ



How does it feel
How does it feel
To be on your own
With no direction home
Like a complete unknown
Like a rolling stone ?

どんな気持ちだ
どんな気持ちがする
一人きりでいることは
帰る家もなくして
誰にも知られずにいることは
転がる石のようだよな